20世紀が「科学技術と経済の世紀」だったとすれば、21世紀は「価値の世紀」である。

科学技術の進展と経済的繁栄が、
必ずしも人々のウェルビーイングや世界の平和に直結しないことが明らかとなった今日、
改めて「本当の幸せとは何か」、「目指すべき価値とは何か」が問われているのである。

また、ますます多元化する世界を前にして、
このような「価値をめぐる問い」には唯一の正解がありえないことにも、我々は気づきつつある。

さらに「個人の同一性(アイデンティティ)」や「社会の単一性(ユニフォーミティ)」が
単なる「神話」にすぎないことが暴かれたことを受け、
複数の価値が層をなして積み重なっている「価値多層社会」の実現も切実に求められている。

このような状況を前に、「価値の提案の学」としての哲学、
ひいては社会に積極的に関与する人文学、
すなわち「エンゲージング・ヒューマニティ」の再興が、今こそ求められている。

このような新たな哲学、新たな人文学は、
20世紀のデファクトスタンダートとなった西欧・北米思想のみならず、
アジア、アフリカ、中南米、オセアニアなど、世界各地域に息づく伝統にも光を当て、
それらを同等の真正性(オーセンティシティ)を持った世界観として再言語化することで、
相異なる価値観の「矛盾的共存」を実現するミッションをも担っている。

「京都哲学研究所」は、国内外の産官学民からなる多様な人々の参加を得て、
歴史文化都市・京都の地から、多様な価値の提案を通じて、
価値多層社会を目指す、国際的な訴求力を持った運動体を形成することを目指して設立された。

「価値多層社会」の実現

世界中の人々が、多様な価値観を認め合い、共存し、協力し合う社会の実現を目指す。

科学技術と経済の進展が、人々のウェルビーイングや世界の平和に貢献・調和するための新たな価値観を提案する。

「目指すべき価値とは何か」「幸せとは何か」といった根本的な問い(big question)に答えることを通じて、社会の変革に寄与する。

Outline

名称 一般社団法人 京都哲学研究所
(Kyoto Institute of Philosophy)
共同代表理事 出口 康夫 京都大学
大学院文学研究科 研究科長・教授
澤田 純 日本電信電話株式会社
取締役会長
理事 戸田 裕一 株式会社博報堂
取締役会長
東原 敏昭 株式会社日立製作所
取締役会長 代表執行役
山口 寿一 株式会社読売新聞グループ本社
代表取締役社長
大森 久美子 日本電信電話株式会社
研究開発マーケティング本部 マーケティング部門
R&Dマーケティング担当部長
Senior Global Advisor マルクス・ガブリエル ボン大学 哲学科正教授(認識論、近現代哲学)
国際哲学センター所長
科学思想センター所長
Executive Advisor /
Chief Strategist
野村 将揮 MPA (Harvard University)
MPhil (Kyoto University)
ハーバード大学デザイン大学院
Yamauchi No.10 Family Office
KIP Ambassador 福岡 伸一 生物学者
青山学院大学 総合文化政策学部教授
Founding Benefactor ピン & ロバート
トムソン ファミリー

Messages

共同代表理事

出口 康夫

「哲学とは価値の提案の学問である」

提案する相手は、何よりも人々であり社会です。人々にその声を届けるためにも、哲学はいま再び、社会に向き合い、社会にエンゲージしなければなりません。一方、21世紀の世界は、価値の多元化、多層化をますます必要としています。このような二つの指向性が交わる「場」、哲学と社会を結び、両者の対話の中から新たな人間観、世界観を生み出し、それを世界に発信する「場」として京都哲学研究所は設立されました。

世界の人々や研究者が、ここ京都に集い、議論し交流することで、京都発の新たな価値観と知のトレンドを生み出す。

それが「われわれ」のミッションであり、夢でもあるのです。

出口 康夫
京都大学
大学院文学研究科 研究科長・教授

京都大学大学院文学研究科博士課程終了。博士(文学)。2002年京都大学大学院文学研究科哲学専修着任。現在、同教授、文学研究科研究科長。専攻は哲学、特に分析アジア哲学、数理哲学。現在「WEターン」という新たな価値のシステムを提唱している。近著に『AI親友論』(徳間書店), What Can’t Be Said: Paradox and Contradiction in East AsianThought (Oxford UP), Moon Points Back (Oxford UP)など。

澤田 純

2019年夏、京都大学の出口教授を訪ね、
新しい情報通信基盤(IOWN)について議論した折、
「新しい社会インフラには新しい哲学が必要」と明確な示唆をされました。

現在、生成AIや新情報通信基盤により、社会や人々の生活が大きく変化する可能性が高くなっています。

さらにコロナパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、世界の安全保障は厳しくなり、冷戦構造、南北構造など社会の分断構造が多くみられるようになっています。

これらの状況への建設的な対応は、多様な価値の同時両立を認め合う、パラコンシステントの考え方の適用、そして西洋の価値と東洋の価値を共存させるような、新しい哲学の実現が必要であると考えます。

価値多層社会の創造を京都から提案し、技術革新の成果をより豊かな社会形成に生かした希望のある未来を創っていきたいと考えています。

その第一歩が、京都哲学研究所の創設なのです。

澤田 純
日本電信電話株式会社
取締役会長

日本電信電話株式会社代表取締役社長を経て、同社取締役会長。同社社長在任中には、次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」構想の発表、NTTの組織再編、国内外の提携推進など大胆な改革を進める。哲学に造詣が深いことでも知られ、著書『パラコンシステント・ワールド』(NTT出版)では、哲学・生命科学・情報科学の観点からパラコンシステントという未来のビジョンを提示。日米経済協議会会長、日本経済団体連合会副会長および立命館大学ビジネススクール客員教授なども務める。2024年6月には、貿易・投資ならびに日英関係発展への功績により、名誉大英勲章OBE(Honorary Officer of the Most Excellent Order of the British Empire)を授与される。京都大学工学部土木工学科卒。

Senior Global
Advisor

マルクス・ガブリエル

生成AIやその他の新しいデジタル技術の急速な発展により、人類は価値観の危機に直面しています。

複雑化の一途をたどる現代社会において、分野や学問領域を超えて協働する新たな公共哲学が求められています。

その目的は、AI時代において私たちが善く生きることを可能にする新たな価値観を構築することです。

京都哲学研究所はこの喫緊の課題に応えるべく、哲学、ビジネス、そして他の様々な分野の力を結集することにより、デジタルインフラの再構築を目指しています。

この度、未来社会を見据え、ハイレベルな活動を目指すこの新たな研究所にシニア・グローバル・アドバイザーとして参加できることは、この上ない喜びであり光栄です。

マルクス・ガブリエル
ボン大学 哲学科正教授(認識論、近現代哲学)
国際哲学センター所長
科学思想センター所長

1980年生まれ。ボン、ハイデルベルク、リスボン、ニューヨークで学ぶ。
世界的に著名な哲学者であり、現在取り組むプロジェクト”New Enlightenment(新しい啓蒙)”の重要な要素である「新実在論」の提唱者。
2009年にわずか29歳でドイツ史上最年少の哲学正教授に就任以降、ボン大学で認識論、近現代哲学講座を担当し、国際哲学センターの所長を務めている。
また、現代の最も差し迫った問題に対し、生産的で持続可能な解決策を見つけるため、哲学と自然科学の学際的な意見交換を追求するボン大学科学思想センターの所長も務める。
著書に『なぜ世界は存在しないのか』(講談社), 『「私」は脳ではないー21世紀のための精神の哲学』(講談社), The Meaning of Thought (Polity), Moral Progress in Dark Times: Universal Values for the 21st Century (Polity)などがある。

Action

01

「価値多層社会」実現のための
国際的な運動体の形成

国際運動体の形成を目指した
国内外のネットワーク構築

様々な人々が世界各地より一堂に会し、
価値多層社会の実現に向けて討議する
「京都会議」の定期開催

02

新しい社会インフラのための
価値提案

新たな価値の提案に結びつく哲学研究

価値提案の学としての哲学と
人文社会科学・理工医学等の隣接諸学との共同研究

03

新たな価値の社会実装

産官学民、アート・デザイン界等との価値共創活動

新たな価値の社会発信にかかわる各種の事業