【京都会議ハイライト6】円卓囲み「偶発性」楽しむ 自由討論の妙味を体感 ――ラウンドテーブル その1
ラウンドテーブルは、分野の垣根を越えた直接対話の妙味を体感していただきたいと願って設けた特別な場です。様々な論点が浮き彫りになってくるであろう京都会議初日の午後に「パートⅢ」として設定しました。テーマは「価値共創の地平」。各テーブルで自由に40分間の意見交換を行った後、テーブルの代表者に壇上で議論の内容を紹介・総括していただくラップアップパネルを30分間行いました。
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ニュース・記事内容
金融、保険、電気、マスコミ・・・業界トップが活発意見
会場を大きく二つに分け、一部屋にはテーブルA~Dの4テーブルを、もう一部屋にはテーブルE~Gの3テーブルを用意。各テーブルには二重の円を描くようにイスを配置しました。どの円卓のどの席に座るか、すべては参加者の考え次第です。着席者の顔ぶれによって議論の基調が変化する偶発性も面白さです。
この自由な対話の場で顕著だったのは、ビジネス界からの積極的な意見表明でした。トップ企業の経営者が進んで円卓の最前列に座り、業界が直面する課題やジレンマなどについても語りました。
「バリューを定義し、実際の社会生活や様々な場面に生かしていくことが重要だというのは、一貫したテーマだったと思います。その点については全く同意見です」
テーブルBに参加した三井住友フィナンシャルグループの髙島誠会長は、京都会議初日のここまでの議論を、そう総括しました。そのうえで「同時に感じるのは、現実に世界中で起こっていること、特にテクノロジーの進歩を考えると、テクノロジーを何のために、何のバリューのために使うのかを、いかに具体的に定義していくか。そして、ビジネスを展開する立場において、それを説明していくことが大事だと感じます」と述べました。
同じテーブルに着いた東京海上日動火災保険の永野毅相談役は、ビジネスとAIとのかかわり方について話しました。
「AIはおそらく日常の仕事をどんどん侵食していくと思います。人間にしかできないことはパーパスの設定。どんな社会をデザインし、どんなより良い社会を作りたいかを考えるのは人間の仕事です。そのためには教育がとても大事です」
テーブルAの主要論点も産業界におけるAIの活用でした。経団連副会長を務める日本電気(NEC)の遠藤信博特別顧問は「我々のコンピューティングパワーはものすごく力をつけたので、情報ではなくデータを直接扱えるようになりました。非常に広いデータをベースに答えを作ることができる。ということは、全体最適に近づくということなんですね。全体最適って人間社会が今まで経験したことない最適化なので、少し期待をしたいと思っています」と話しました。
一方、テーブルCでは朝日新聞の角田克社長がAI検索サービスの普及で個別サイトの訪問者が減りつつある現状について取り上げました。新聞社は紙の新聞の販売だけでなくホームページの運営によっても収入を得ており、サイト訪問者の減少は経営基盤の悪化につながります。角田社長は「民主社会とか生き方とかを考えるための大元の確認された情報、裏付けされた情報、(その)発信源(である報道機関)が枯渇していくというところをAIの中でどう見るか。こういう機会に社会的な課題として少し意識していただければ」と述べました。
AIによるデータ学習についてはテーブルAでも話題となりました。第一生命保険の稲垣精二会長は「知的財産権を守れない企業にお金を投資できるかというところも非常にマインドセットの変更が必要だし、それには何らかのデザインを変えないと今の資本主義のシステムではなかなかできません。一緒に考えたいと思います」と語りました。
「認識すべきは無意識の価値観」「理解がイノベーション促進」
テーブルFでは「価値観」をキーワードに企業トップたちが意見を交わしました。
東芝の島田太郎社長は「重要だと思うことの一つは『無意識の価値観』です。自分では気づいていないけれど、ある価値観に傾いている。私たちは『意見を受け入れる』と言いますが、自分の中にある無意識の偏りを認識する必要があります」と指摘。みずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は「イノベーションは相手を理解しようとすることから生まれます。まず『理解できない』と認めることが必要で、その上で『理解しようとする』ことがイノベーションを促進するのです」と応じました。
一連のやりとりを聞いていたジュリア・ロングボトム駐日イギリス大使は、外交官としての実感を踏まえて、こう語りました。
「民主主義や人権、死刑制度について、その国が私たちと同じ考えかどうかを判断するために価値観という言葉を使うことがよくあります。価値観が一致する国が友人で、そうでない国は友人ではないといった具合です。しかし、こうした考え方は、つながりや思考の方法を分断するものであり、あまり有益ではないですね。異なる信念や価値観の背景にあるものを理解しようとすることが、より良い関係につながるのではないでしょうか」
テーブルDでも価値観を巡って博報堂の戸田裕一相談役が「新しいコミュニケーション、新しいメディアには新しい哲学が必要だと考えています。今のコミュニケーションの現在、そして未来を考えた時に、新しい価値軸と言いますか、新しい人間観みたいなものが必要になってくるのでは」と話しました。
有識者・専門家の意見交錯 AIの光と影めぐり
ラウンドテーブルでは、科学技術やAI開発の専門家からも多くの発言がありました。
AIの不備について語ったのは、テーブルAに参加したインド経営大学院大学アーメダバード校のアニル・K・グプタ客員教授です。草の根の発明家を発掘して支援するネットワーク組織ハニー・ビー・ネットワークの創設者としても知られるグプタ客員教授は、AIが学習できるのはインターネット上に存在する情報に限定されるため、たとえば「長老たちの暗黙知」や、人間の内面にある「願望、想像力、創造性」などは吸収できないと話しました。
テーブルBでは、AI開発企業プリファード・ネットワークスの岡野原大輔最高技術責任者が発言。ライフサイエンスやマテリアルサイエンスの一部分野ではAIが研究者の能力を上回りつつあり、ソフトウェア開発でも同様のことが起きていると指摘し、「今後、様々な分野でこのような状況をどう受け入れていくかを考えていく必要があると思います」と述べました。
東京科学大学の大竹尚登理事長はテーブルCで、機械材料学の専門家ならではの視点で現状を分析しました。
「今、ユニバースの4%ぐらいしか人間はわかってないのです。重さで言うと。要するに96%は誰もわかってないのですよね。AIもわかるはずがないのですよ」
そのうえで大竹理事長は「まだ人間もAIも自然のことはほとんどわかってないということを認識してAIと付き合うと、それほど肩肘張らないで付き合えるかなって私自身、思っています」と語り、会場の空気を和ませました。
ラウンドテーブルその2に続く
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