【京都会議ハイライト7】国際色豊かに70人が意見 「中空」体現した少人数対話 ――ラウンドテーブル その2

 2会場の7卓にわかれて直接対話を行ったラウンドテーブル。国内外を問わず産業界・学術界から約70人が発言し、領域横断の魅力ある議論が展開されました。レポート記事「ラウンドテーブル その1」に続いて一部を紹介します。

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「WEターン」「普遍性」――海外有識者3人が論点導く

 EからGの3テーブルを設けた一室では冒頭、各テーブルの議論を牽引する3人の有識者が壇上に並び、それぞれ5分ずつ話をして参加者に共通の「議論のタネ」を提供するという手法をとりました。実りある意見交換にしようと、タリン大学(エストニア)のトヌ・ヴィーク学長、フローニンゲン大学(オランダ)のアンドレイ・ツヴィッター教授、ケープコースト大学(ガーナ)のフセイン・イヌサー准教授の3人が知恵を絞って決めた進行です。各テーブルで個別に議論をスタートした別室とは異なる進行でしたが、議論の焦点を定める助けとなりました。

 ヴィーク学長が壇上で語ったのは、当研究所の共同代表理事でもある出口康夫京都大学教授の持論「WEターン」についてです。

 「このアイデアが対話の概念、そして文化そのものを再考する必要性を示しているように感じられました。また、企業や組織、大学におけるリーダーシップのあり方を見直す呼びかけにも聞こえました。さらに、民主社会における公共圏の文化、つまりメディア上での議論のあり方を再構築する試みだとも思いました」

 WEターンの思考様式について今一度、参加者の皆さんも考えながら議論してほしい――。ヴィーク学長のそんな願いが聞こえてくるような壇上からのメッセージでした。

 ツヴィッター教授が提起したのは普遍性です。普遍性には「人々による合意」「社会的・経済的必然性」「物理的・生物学的必然性」の3要素に加えて「普遍に参与することの普遍性」があるとし、四つ目の要素についてツヴィッター教授は「ほとんど議論されていません」と指摘しました。この日午前のパネルディスカッションで、梨花女子大学(韓国)のキム・ヘイソク名誉教授とローズ大学(南アフリカ)のマイケル・ネオコスモス名誉教授が普遍性について語りましたが、そこに立ち返る発言でした。

 イヌサー准教授も普遍性について語りました。アフリカの政治・文化に詳しいイヌサー准教授によれば、アフリカから見た場合、普遍主義という言葉は二面性を包含するといいます。すなわち「特定の文化の要素を他の文化に押し付ける『歪んだ普遍主義』」と「数学の公理や私たちが皆人間であるという事実など文化を越えて共有される『通常の普遍主義』」の二つの側面です。イヌサー准教授は「歪んだ普遍主義は中立性を装い、差異を消し去り、差異に無関心であるべきだという考えを伴います」と述べ、「この問題は十分に検討されていません。特にグローバルサウス、アフリカの一部から見るとそうです」と強調しました。

 3人の有識者による冒頭発言が呼び水となり、各テーブルでは「WEターン」や「普遍性」に関する議論が深まりを見せました。

分身ロボットで議論に参加 筋萎縮症の永廣さん 

 テーブルDで注目を集めた参加者がいました。東京都の永廣柾人さんが遠隔操作する分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」です。

 永廣さんは全身の筋力が徐々に低下していく難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)で寝たきりの身。しかし、目の動きを感知するセンサーを通じてオリヒメを動かすことができ、オリヒメの内蔵カメラやスピーカーで遠くの人と会話することもできます。オリヒメを開発したオリィ研究所の吉藤オリィ所長が小型のオリヒメを肩に乗せて京都会議に参加し、永廣さんはそれを操りながらテーブルDの輪に加わりました。

 「どんどんテクノロジーをうまく使って、どんどん人ができることが増えたらいいなという風に思いながら、はい。今日いろいろ皆さんのご意見も聞かせていただきながら、参考にしたいと思います。ありがとうございます」

 そう語る永廣さんを、参加者たちは温かく迎えました。

 永廣さんは普段、オリヒメが店員として活躍する日本橋のカフェで、そのうちの1台を操縦して注文をとったり客の話し相手になったりしています。走行式オリヒメが操縦の誤りで転倒して動かなくなるなど、店内ではハプニングも少なくないとか。ただ、不登校の経験を糧に大学時代から15年以上にわたって研究に没頭してきた吉藤所長は、失敗にこそ人間の良さがあると考えているそうです。

 「肉体労働はロボット、頭脳労働はAIが担う時代に、人がやる価値とは何か。何の労働が残るのだろう。私たちは、それを実験しています」

 「できること」ではなく「できないこと」から人間の関係性を考える出口教授のWEターン思考と共通項があります。この吉藤所長の発言をきっかけに、テーブルDの議論は日本の産業界がとかく失敗やリスクを回避しがちだという点に収斂していきました。吉藤所長の隣に座るオリィ研究所共同創業者の結城明姫さんは、こう語りました。

 「社会に実装した時の失敗をした上でないと、本当に社会の中で使えるものにはなりません。AIに立ち返るとリスクがやはり強く表に出ていて、実験室の中での失敗は許されても社会実装した後の失敗が許されないという風潮が、私は少し気になっています」

「主体的に関わることできた」 参加者から高い評価も

 京都会議の参加者からいただいた事後感想には、ラウンドテーブルへの高い評価がつづられていました。

 「主体的に関わり、ディスカッションできたことが有意義でした」

 「異文化の意見をじかに知ることができ、他のカンファレンスとの違いを感じました」

 車座集会のような少人数対話の場は、出口教授が基調講演で提唱した「中空」を体現したとも言えます。当研究所はラウンドテーブルを京都会議の特長の一つと位置付け、第2回会議でも継続していきたいと考えています。

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