欧州で「WEターン」提唱。出口教授、日本哲学の研究者らと交流。エストニア訪問
京都哲学研究所の共同代表理事を務める出口康夫教授が、欧州を中心とする日本哲学研究者の団体の年次大会に基調講演者として招待を受け、エストニアを訪問しました。
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京都哲学研究所の共同代表理事を務める出口康夫京大教授が、欧州を中心とする日本哲学研究者の団体「ENOJP」(European Network of Japanese Philosophy)の第8回年次大会に基調講演者として招待を受け、エストニアを訪問しました。
年次大会には欧州のみならず日本を含め世界中から参加者が集います。今年は9月6日から8日にかけて同国の首都タリンのタリン大学で開催されました。3日間にわたる大会では、およそ35のセッションとパネルで80名超の研究者による個人発表が行われました。
出口教授は最終日に講演し、これまで「I(わたし)」として考えられてきた行為主体を「WE(われわれ)」へと転換することで、旧来の個人中心主義的な思考枠組みから脱却しようとする「WEターン」の構想を提示しました。出口教授はまず、あらゆる行為はその行為に様々なかたちで関与する生物や自然物、また道具や機械などの人工物といった「マルチエージェントシステム」の働きにより成立する、という身体行為のWEターンの基本的な議論構造を解説しました。
こうしたWEターンは責任、権利、ウェルビーイングなど価値に関わる諸概念の従来的な理解にもラディカルな変更を迫り、私たちの生の現実や社会制度に対して重要な帰結を持つことになります。そのうちの一つが人間とAIやロボットとの関係の変容、つまりAIやロボットを主人である人間に奉仕する奴隷=道具とみなす「主人-奴隷モデル」から、対等な仲間として扱う「フェローシップモデル」への転換だ、と出口教授は説明します。そして、WEターンのアイデアは東アジアの思想における「真なる自己」や「聖なる愚者」概念の系譜に位置づけられると述べました。日本哲学研究者が集まる学会らしく、聴衆からはこの点について活発な質問とコメントが寄せられました。
年次大会の閉幕後は、タリンから東へ車で1時間ほどの郊外にあるカスムに場所を移し、出口教授とレイン・ラウド教授(タリン大学)が中心になって「WEモードの哲学」と銘打ったワークショップを9日から10日の2日間にわたって開催しました。
出口教授は年次大会の基調講演を引き継ぐかたちで「Self-as-WEとしての自己はどのように経験されうるのか?」という問いを提示しました。「わたし」の行為を可能にするマルチエージェント・システムは、自然物や人工物をも含む抽象的な存在であるがゆえに、「われわれ」自体はSelf-as-WEという自己意識を持ちえません。しかし、そこに含まれる「わたし」は心的性質を持ち、自分が属するマルチエージェント・システムを様々な方法で「自己」として意識することができるはずです。ここにこそ、Self-as-WEという自己の捉え方において、消去されることも「われわれ」に還元されることもない「わたし」の役割と意味がある、と出口教授は結論づけました。
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