「AIは仲間」「倫理的なAIを」…テクノロジーと人間の在り方展望 チリ未来会議にKIP教授陣

 京都哲学研究所共同代表理事の出口康夫京都大学教授と、当研究所のシニア・グローバル・アドバイザーを務めるマルクス・ガブリエル独ボン大学教授がチリを訪問し、1月13日から6日間にわたり首都サンティアゴで開催されたチリ未来会議(CONGRESO FUTURIO)に出席しました。AIの急速な進化を踏まえて「人間とは何か」という問いに関心が集まる中、科学者を中心に議論を重ねてきた同会議は今年、初の試みとして世界的な哲学者らを招待。両教授はそれぞれ招待ゲストとして単独講演を行いました。

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 チリ未来会議は、同国の国会が学術界などと連携し2011年に創設した組織で、気候変動や感染症の世界的流行など「人類が直面する社会的、文化的、政治的問題について対話すること」を目的に掲げています。毎年、有識者や企業関係者、国会議員らが集まって講演やパネルディスカッションを行っており、ボリッチ大統領が国会議事堂で開会を宣言するなど政府が支援しているのも特徴です。今年の未来会議の主要テーマの一つはAIで、人間の未来を展望するには哲学的な考察が欠かせないことから、出口教授をはじめ人文学分野の研究者が招待されました。当研究所の大森久美子理事も出席しました。

 出口教授は未来会議2日目の14日に登壇し、「AI倫理におけるフェローシップ 新たなビジョン」と題して約20分間にわたり講演しました。出口教授は、AIやロボットの開発には指針が必要だと強調したうえで、人間、動物、自然物に加えAIやロボットなどの人工物も水平的な関係のもとに支えあう「共冒険者(フェローシップ)モデル」を提唱。このモデルは欧州の一部の学者が唱える「主人/奴隷モデル」とは対照的だと指摘し、共冒険者モデルに照らして考えればAI は人間の仲間として概念化されるため、たとえばAIが人間に「道徳とは何か」を教えることも許容されると述べました。

 講演を聞いた会議関係者の男性は「過去に学ぶのが哲学だと思っていたが、出口教授は新たな概念思想を提案された。感動した」と感想を語りました。出口教授は大統領主催の夕食会にも招待されました。

 一方、ガブリエル教授は未来会議5日目の17日、「AIと倫理」をテーマにした講演を行いました。ガブリエル教授はSF的シナリオに基づいた議論や、単に規制によって問題に対処する方法に否定的見解を示したうえで、人間の価値判断の形式を分析し、道徳的事実の発見に資するような「倫理的なAI」を構築する必要性を説きました。そのためには学際的、多文化的な研究が不可欠だとし、京都哲学研究所の取り組みについて「NTTや日本の大手メディア企業と協力してプラットフォーム内の分断を克服するための活動を行っている」と意義を強調しました。

 ガブリエル教授はまた、同会議の特別プログラムの一つに位置付けられた「第1回哲学者会議」に出席し、科学技術と人間の関係についてAIを専門とするローレンス・デヴィレール教授や技術哲学を専門とするユク・ホイ教授らと意見を交わしました。

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