「できなさ」が「WE」をつくる 重度知的障害者から得た学び 浜松の施設で意見交換会

「新しい価値観との出会い」をテーマにした意見交換会が1月27日、静岡県浜松市の重度知的障害者活動拠点「たけし文化センター連尺町」で開かれました。京都哲学研究所共同代表理事の出口康夫京都大学教授がゲストに招かれ、「人間のできなさ」を見つめる大切さについて講演。これに先立ち、当研究所の一般賛助会員でもある靴下製造会社「岡本」の岡本隆太郎社長らが「施設の日常」を実体験し、利用者とふれあいました。
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今回の意見交換会は、同センターを運営する認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの年間を通じた取り組み「『表現未満、プロジェクト』新しい価値を創造する~哲学・学び・アート・場づくり」(「令和6年度障害者等による文化芸術活動推進事業」として文化庁が採択)の一環です。
重度知的障害者の壮(たけし)さん=写真左=を息子に持つレッツの久保田翠理事長は2000年の団体設立以来、「障害者による問題行動だとしても、その人が熱心に取り組むことに敬意を持ち受け入れていくことは、固定観念や価値観を変えていく機会になる」との信念で活動を続けているといいます。「たけし文化センター」の施設名称は壮さんに由来し、「文化」の名を冠している通り文化芸術に造詣の深いスタッフが施設運営の主力を担っています。施設利用者の主体性を尊重して自由な時間と空間を用意し、思い思いに過ごせるようにしているのが特徴です。
久保田理事長と出口教授とは以前から親交があり、出口教授が施設を訪問するのも初めてではありません。この日の意見交換会には、出口教授のもとで学ぶ京大生のほか、当研究所のスタッフや地元企業関係者らも参加しました。
出口教授は講演で、旧来の個人中心主義的な思考枠組みから脱却しようとする「WEターン」の視点が大切だと説きました。「ここに最初に来た時、WEの一つはこれだと思った。1人では何もできない障害者をスタッフ、ヘルパーさんだけじゃなくコミュニティ全体、建物全体で支えている」と語り、さらにこう強調しました。
「今の社会は、我々が見るべき『WE』を隠そうとしている。ここは違う。浜松という大きな街の真ん中に施設を設け、建物の前面もガラス張りにして『WE』を顕在化している」
講演前には、意見交換会の参加者らが施設利用者とともに午前から夕方まで、ゆったりと過ごす時間がありました。浜松駅前へ一緒に買い物に出たり、同じテーブルで昼食をとったり。エレキギターやドラムを好き好きに鳴らしてロック音楽を楽しんだりもしました。
施設利用者の堤亮賀さんの隣に座って会話を始めたのは、奈良から参加した岡本社長です。最初こそ堤さんの発する言葉をなかなか理解できない岡本社長でしたが、堤さんが「23」という数字と動物などのイラストを1枚の紙に描くよう求めていることがわかると、注文に応じて数十枚もの絵を描き上げました。堤さんが満足そうに岡本社長作の絵をセロテープで壁に貼っていく姿が印象的でした。
岡本社長は「『できなさ』を起点とした、まさに『Self-as-WE』という在り方の一員になった一日でした。『自分のあたりまえ』が大きく揺さぶられ、『○○は□□だ』という意味が剥がされていくような生々しい体験から、価値の多様性について改めて考えさせられました」と感想を語りました。
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