「京都宣言ともに考えよう」 出口教授、講演で提唱 京大と連携協定記念セミナー L.Aポール教授も登壇

 京都哲学研究所と京都大学の包括連携協定締結を記念したセミナー「価値多層社会のヒューマニティーズ―価値の変容、自己の変容、社会の変容―」が11月17日、京都大学芝蘭会館山内ホールで開催されました。当研究所共同代表理事の出口康夫京都大学教授や、9月の第1回京都会議でパネリストを務めた米エール大学のL. A. ポール教授らが講演し、会場とオンライン合わせて約200人が聞き入りました。

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 当研究所は今年6月23日、「京都の世界的な知的交流と価値創造の中心拠点としての確立に寄与すること」を目指して京都大学と包括連携協定を締結しました。当研究所が推進する「国際的運動体の形成」と、京都大学が取り組む「グローバルアジェンダの形成」を、さらに力強いものにしていくことを目的としています。 出口教授はこの日の講演で、今後の具体的な連携策について語り、2027年開催予定の第2回京都会議で「京都宣言」を打ち出す考えを改めて表明したうえで、①京都大学の研究者と京都宣言に関する議論を行う②世界の研究者と京都大学の若手研究者をつなげていく③産官学民の連携を強化していく――などのプランを挙げました。

 出口教授はまた、当研究所が掲げる理念「価値多層社会」について説明し、「個人でも社会でも実は異なった、場合によっては相対立する、相矛盾する価値観が中間色として溶け合わずに、多層的に共存しているのではないか。このリアルを積極的に認め合うような社会」を目指したいと述べました。京都会議で当研究所が提示したABCモデルについても触れました。ABCモデルは、現代の課題を駆動するメカニズムを「分断」と「変容」の二つの力学で捉え直し、それを乗り越えるための思考法です。出口教授は「人間とは何か、社会とは何か、価値とは何かというコア(Core=C)まで潜って議論して、それを具体的なアクション(Action=A)にブリッジ(Bridge=B)していく。AとCの間を行き来しながら価値多層社会を目指していこう」と協力を呼びかけました。

 一方、ポール教授は研究テーマである「変容的経験」について約1時間にわたり講演しました。変容的経験とは「認識的変容=それがどのようなものかを知るためには、その経験をしなければならない」と「個人的変容=その経験が自身を深く変え、中核的な価値観やアイデンティティを再形成すること」の両方をもたらす経験を言います。ポール教授は講演の中で、出口教授が提唱する「WEターン」についても言及し、「私たちは変革の時代に生きており、変化がもたらす課題を理解する必要があります」「出口教授が提唱するWEターンを取り入れ、私たちの集団的な未来を導くことができる新しい価値観を積極的に提案する必要があります」などと語りました。

 記念セミナーではこのほか、稲谷龍彦京都大学教授が「リーガル・エンジニアリング:AIによる法と技術の融合について」と題して講演。セミナー終了後には「研究懇談会」も開催され、当研究所の研究員で英オックスフォード大学インテーザ・サンパオロ・リサーチフェローと京都大学経営管理大学院特定講師も務めるサミュエル・モーティマー博士がプレゼンテーションを行いました。その後、視覚科学、認知科学、景観学、脳科学の研究者たちとともに意見を交わしました。

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