AI時代の「知性の限界」とは…KIP教授陣と京大院生、米NYの哲学研で闊達議論

出口康夫京都大学教授と独ボン大学のマルクス・ガブリエル教授が、米ニューヨークの哲学・新人文学研究所で開催された集中ワークショップに登壇しました。日米独の大学院生ら約20人とともに、AI時代の「知性の限界」を巡って闊達に意見を交わしました。

Details

京都哲学研究所の共同代表理事を務める出口康夫京都大学教授とシニア・グローバル・アドバイザーを務める独ボン大学のマルクス・ガブリエル教授が、米ニューヨークの哲学・新人文学研究所で開催された集中ワークショップに登壇しました。

哲学・新人文学研究所は、ウド・ケラー財団(独)から援助を受けて、ニューヨークにある私立大学「ニュースクール」の人文社会科学を専門とする部門「ニュースクール・フォー・ソーシャル・リサーチ」内に2020年、設立されました。同研究所は毎年秋、ニュースクールやボン大などの大学院生を対象に、著名な研究者を招いて現代の哲学や人文科学における差し迫った問題を考える5日間のワークショップを行っています。

5回目となる今回は、人工知能(AI)の発達めざましい現代において「知性の限界」とはどのようなものか、というテーマを軸に、9月30日から10月4日にかけて行われ、ガブリエル教授はモデレーターを務めました。また、5日間のワークショップを締めくくるForum Humanumレクチャラーとして出口教授が最終日に登壇し、東アジア思想を背景とした出口教授自身の思想「WEターン」や、それを踏まえた人間とAIの理想的関係について講演しました。ニュースクールやボン大の大学院生に加え、今回は当研究所の辻麻衣子研究員引率のもと、京大の大学院生3人も参加し、約20人でワークショップに臨みました。

ワークショップ2日目には、ドイツのベストセラー作家ダニエル・ケールマン氏とガブリエル教授が共同モデレーターとなり、理解や翻訳といった知性的行為とAIの関係についてパネルディスッションが行われました。冒頭、共同モデレーターの2人は、ケールマン氏のインタビューを扱ったポッドキャストを紹介し、それがAIを使って生成されたものだと最後に明かして「AIは本当に意味を理解しているのか。ただ人間の会話を真似ているだけではないのか」という問いを大学院生らに投げかけました。ガブリエル教授は、一般的に多くの人が「AIはパターン認識をしているだけだ」と考えていると指摘したうえで、20世紀の言語哲学者クワインとデイヴィドソンによる「理解は翻訳のようなものだ」というテーゼを挙げ、パターン認識こそが理解の本質であり、人間が行っている日常の会話や思考もAIと大差がないとも言えるのではないかと述べました。すると、参加している大学院生や他のレクチャラーの間で白熱した議論が交わされました。

京大から参加した大学院生3人は、ワークショップに参加した感想をそれぞれ、こう語っています。

「人間という『主体性』をもった存在の特殊性と、行為の源泉である『価値』をどのようにして知るのか、という哲学史上の中心的問いが、主体性と対象性の狭間に位置するAIの出現を契機として再び顕在化しているのだと感じた」

「科学が特にマイノリティーの人々を時として倫理的に扱わないがゆえにマイノリティーの人々が科学を信頼できない、という類の認識的不正義は、AIについても起こりうる。実際、履歴書による採用試験やSNSのアカウント停止においてAIが偏った判断を下すという事態が生じている。現代社会において、そういった事態は知識を得る機会の不平等を生むと考えられる」

「全体を通して皆が絶えず注目していたのは『人間とAIの違いは何か』だったが、東洋の思考から見ると、むしろ『AIと人間の関係はどうあるべきか』が気にかかる。日本が重視する『和』や『関係性』、『沈黙』は、現代のテクノロジーに人類がどう向き合うかに新たな視点をもたらすという点で極めて重要なのではないか」

Others