出口教授、ドイツの国際フォーラムで講演。ガブリエル教授はカント生誕300年記念会議に招待
京都哲学研究所の共同代表理事を務める出口康夫教授がドイツで開催された国際フォーラムで講演しました。カント生誕300年を記念した今年の「国際カント会議」ではマルクス・ガブリエル教授が招待講演を行いました。
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京都哲学研究所の共同代表理事を務める出口康夫京大教授が、9月10日から13日までドイツのボンで開催された国際フォーラムで講演しました。これに先だってボンで開催された「国際カント会議」では、当研究所のシニア・グローバル・アドバイザーを務めるボン大学のマルクス・ガブリエル教授も招待講演を行いました。
出口教授が講演した国際フォーラムは、ドイツのアレクサンダー・フォン・フンボルト財団が授与する「フンボルト賞」受賞者ら研究者を世界各国から招き、同財団が毎年開催しているものです。2024年はドイツの哲学者イマヌエル・カント生誕300年にあたるため、今年のフォーラムではこれを記念して「カント哲学をグローバルな視点から、またグローバルな問題をカント的視点から考察する」というテーマが設定されました。4日間にわたり約30の講演が行われ、人権や植民地主義、世界宗教といったトピックとカントとの関係について活発な議論が交わされました。
「東アジア的観点からのカント哲学への応答」と題した出口教授の講演は、フォーラム3日目の9日12日に行われました。出口教授は、自身の提唱する「WEターン」が東アジアの伝統的思想に着想を得ており、自律や自由といった概念に関してカント哲学とは異なった捉え方をするものの、人格の知的、倫理的完成を目指す「陶冶」の重要性を強調した20世紀初頭の日本におけるカント受容初期の立場を結節点として類似してもいる、と語りました。WEターンは21世紀の新たな東アジア哲学であり、出口教授自身がカント研究からキャリアをスタートしたという背景を加味するならば、カントに対する21世紀東アジアからの応答であるとも言えるだろう、として出口教授は講演を締めくくりました。
国際カント会議は、カント研究関連としては世界最大の規模で4年ごとに開催され、世界中のカント研究者が研究発表を行い、交流を深める機会となっています。14回目を数える今年はカント生誕300周年の記念大会に位置づけられ、「啓蒙というカントのプロジェクト」という統一テーマが設けられました。150を超えるテーマ別セッションをはじめ、講演やパネルディスカッション、カントと同時代を生きたボンゆかりの音楽家ベートーヴェンとカントに関するコンサートつきレクチャーなど、充実したプログラムでカントの生誕300周年を祝いました。ガブリエル教授と当研究所の研究員が参加しました。
ガブリエル教授は会議3日目の9月10日夜、「カントと新しい啓蒙」という演題で講演を行いました。私たちは、カントが生きた啓蒙の時代とは異なる「道徳的進歩を阻む時代」に生きているとして、ガブリエル教授は具体的な国際政治の状況にも言及しながら時代の診断を下します。政治的な分極化が深まり、インターネットや生成AIによって社会・経済問題が複雑な課題に直面している中で、「新しい啓蒙」は産官学、アート界などセクターを超えた国際的なネットワークにより理論と実践を結びつける取り組みであり、そこでの道徳的進歩は直線的ではなく螺旋状に発展する循環的構造を持つと説明しました。
ガブリエル教授の講演は、カントの思想を参照点としながら「新しい啓蒙」というプロジェクトを通じて、理論に終始するのではなく実践において「善」という倫理的認識を実現する必要性を訴えるものでした。
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