共同体はどのように「自分らしさ」を育むのか――リーダーシップへの示唆を探るサミュエル・モーティマー博士の新論文
京都哲学研究所(KIP)の研究員で、英オックスフォード大学インテーザ・サンパオロ・リサーチフェローと京都大学経営管理大学院特定講師も務めるサミュエル・モーティマー博士(Dr. Samuel Mortimer)の新たな論文が、国際的に高い評価を受ける哲学専門誌『Political Philosophy』に掲載されました。
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「Second-Personal Politics and Political Authenticity」(二人称的政治と政治的真正性)と題された本論文は、人々がどのようにして自分らしく政治的な営みに関わることができるようになるのかを問いかけます。ここでいう「自分らしさ」とは、哲学では「真正性(authenticity)」と呼ばれる概念です。本論文では、真正性は個人が孤立した状態で身につける単なる個人的資質ではなく、一人ひとりが自分自身を理解し、自らのあり方を形づくり、それを表現することを、他者やより大きな共同体が積極的に支える関係性の中でこそ可能になると論じています。
こうした支えの重要性は、個人の自己形成にとどまりません。真正性は、人々が互いに何を正当に求めることができるのかという問題にも関わっているからです。市民が政府に変革を求めたり、リーダーが人々に共通の目標に向けて行動するよう呼びかけたりするとき、呼びかける側の真正性は、呼びかけを受けた相手に、単に圧力に押されて従うのではなく、その人々への敬意から応じる理由を新たに与えるのです。
現代の政治では、真正性という概念がしばしば持ち出されます。政治家は自らを偽りのない人物に見せようとし、政治運動は人々の声を政治に届けることを約束し、市民には自らの信念に忠実であり続けることが促されます。しかし、哲学において真正性は一般に、個人主義的な理想として捉えられてきました。すなわち、自らの内面を見つめ、「本当の自分」を発見し、外部からの影響に抵抗することだと考えられてきたのです。
モーティマー氏は、プラトンの『アルキビアデスⅠ』を手がかりに、古くからある、明確に政治的な意味をもった真正性の捉え方を掘り起こします。この考え方によれば、真正であるとは、自らのあり方を主体的に形づくり、それを自らの行為を通じて表現することを意味します。しかし重要なのは、人はこの能力を一人で身につけるわけではないという点です。人々が政治的な営みを共にする参加者として、互いに働きかけ、認め合い、問いを投げかけ、支え合う「二人称的(second-personal)」な関係を通じて、共同体はその成員が真正な主体性を発揮できるようになることを支えるのです。
こうして真正性を身につけることは、政治に参加するうえでも重要です。本論文では、他者と関わる二つの仕方が区別されます。一つは、相手に情報を伝えたり、影響を与えたりすることです。もう一つは、相手に直接働きかけ、行動を求め、その応答について責任を問うことです。たとえば、市民が政府に不公正な政策の変更を求めるとき、必ずしも新しい情報を提供したり、選挙での不利益を警告したりしているわけではありません。むしろ、意思決定者には市民の訴えを認め、それに応じて行動する責務があるからこそ、そうするよう求めているのかもしれません。本論文では、こうした関わりを「二人称的」な政治的関与と呼びます。すなわち、個人や集団が他者に直接働きかけ、要求を伝え、支持を求め、あるいは変革を呼びかけることです。
この意味での政治的な関与は、政府や選挙に限られるものではありません。企業やその他の組織の内部でも見られます。企業のリーダーが従業員に共通の目的のもとに協力するよう呼びかけるとき、それは単に指示を出しているだけではありません。同様に、従業員が経営陣に労働環境の改善を求めるときも、単に不満を伝えているだけとは限りません。いずれの場合も、人々は互いを、インセンティブや圧力によって行動を管理できるだけの存在としてではなく、自らのコミットメントを問い直し、責任を引き受け、行動することのできる主体として捉え、働きかけているのです。
モーティマー氏は、このような関わりにとって真正性が不可欠であると論じています。自らの呼びかけに応じて他者に行動してもらうためには、その呼びかけに込められたコミットメントを、自分自身が真に引き受けていなければなりません。つまり、自分が何を大切にし、何を支持するのかを主体的に決め、それを実際の行動に反映させる必要があるのです。もちろん、真正性があるからといって、あらゆる要求が正当化されるわけではありません。しかし、その要求自体が正当なものであれば、呼びかける側の真正性によって、相手にはその要求に応じて行動するさらなる理由が与えられます。それは、単に情報を提供したり、権力を行使したりすることによって生じる理由とは異なるものです。
したがって、企業や政府のリーダーにとって重要なのは、真正であるように見せることが支持を集めるのに役立つというだけではありません。実際に真正であることは、他者に何を正当に求めることができるかという点にも関わっているのです。管理職には部下に指示を出す権限があるかもしれません。しかし、同僚に共通の目的への賛同と参加を呼びかけるためには、単に役職に就いているだけでは十分ではありません。自らのコミットメントを吟味し、それに従って生きようとする姿勢、そして自分自身もまた説明責任を引き受ける覚悟が求められるのです。
本論文の議論は、KIPが進める「Self-as-WE(われわれとしての自己)」の探究と響き合うとともに、モーティマー氏がこれまで取り組んできた真正性の社会的基盤に関する研究を、政治哲学の領域へと発展させるものです。また、真正性を、人々が共に担う政治的責任として捉え直します。互いが真正性を身につけられるよう支え合うことで、私たちは変革を呼びかけ、互いの行動について責任を問い合い、共同体や組織の中でリーダーシップを発揮する力を育んでいくのです。
論文全文は、学術誌『Political Philosophy』のウェブサイトで無料公開されています。
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