【対談】京都大学・出口康夫教授とオリィ研究所・吉藤オリィ所長――「下」 「令和の赤ちょうちん」つくりたい 自分の弱さ語り合える場に

 京都哲学研究所の共同代表理事を務める京都大学の出口康夫教授が東京・日本橋の分身ロボットカフェDAWN ver.βを訪ね、OriHimeを開発したオリィ研究所の吉藤オリィ所長と対談しました。上中下3回シリーズの「下」です。

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「存在している」を形にした喜び

出口教授)昨年9月の第1回京都会議について少し振り返らせてください。私はOriHimeの参加が京都会議の一つのハイライトだったと思っています。吉藤さんはOriHimeを肩に乗せて参加してくれましたね。OriHimeを東京の自宅から遠隔操作していたのは、全身の筋力が徐々に低下していく難病の脊髄性筋萎縮症(SMA)を患っている永廣柾人さんでした。永廣さんは目の動きを感知するセンサーを通じてOriHimeを動かすことができ、吉藤さんの秘書を務めているそうですね。吉藤さんとは非常に深い信頼関係で結ばれていて、吉藤さんは「マサ」と呼でいると聞いています。

吉藤所長)はい。京都会議ですごく印象に残っているのは、出口先生を含めて皆さんが「マサ君がいてくれてよかった」と言ってくださったことなんです。マサは港区の自宅にいて寝たきりですから、物理的にはOriHimeが京都会議に参加しただけなのですが、皆さんは間違いなく「京都会議にマサがいた」と感じてくれたわけです。京都市内で開かれた関連イベントにもマサと一緒に出席し、その場で京都市の松井孝治市長から「ちょっと前に出て一言ください」と言ってもらえたりとか。舞妓さんとも交流をして。その日はマサが朝の9時ぐらいから参加し始めて・・・というか存在を始めて、彼がOriHimeを離脱したのが夜の8時ぐらいでした。11時間連続でOriHimeを操作していたことになります。

出口教授)それは、ちょっとブラックな(笑)。

吉藤所長)労働と考えるとブラックなのかもしれませんが(笑)。「存在している」っていう状態をそこまで作ることができたことに、私は喜びを感じておりました。

出口教授)2月に東京大学の東洋文化研究所P4NEXTなどと共催したシンポジウム「Philosophy and Technology on the Horizon of Hope」(希望の地平に立つ哲学とテクノロジー)でも、吉藤さんの講演に続いてマサさんにOriHimeで登壇いただきましたよね。吉藤さんの講演で思い出すのは、自分はスケジュール管理が苦手で、秘書のマサさんにお願いしているという話です。

吉藤所長)最近、私もマサに甘え過ぎていて。なおさらできなくなっていく自分に気づいてはいるんですけど(笑)。

出口教授)私はスケジュール管理どころか、日常生活がもう「できなさ」の満載です(笑)。家族とか秘書に色々ケアをしてもらって初めて生活できています。逆に言うと、やっぱり本当に1人では何もできない。でも、できないことは「できない」と臆面もなく言う方がいいんですよ。相手と晒し合う。そこから本当の付き合いが始まるんじゃないかと思うんです。「何でもできます」っていうエリートサラリーマン然とした付き合いをしていたら、本当の付き合いにならないじゃないですか。愚痴るっていうのは、弱さや情けなさをさらけ出すこと。それは傷の舐め合いっていうことだけにとどまらないですよね。赤ちょうちんに寄って、互いに愚痴り合う。さらけ出すことからWeができる。

心の鎧を脱ぎ捨てよう

吉藤所長)第三者に対しての愚痴だと攻撃的になってしまったりしますよね。良い弱さの出し方って、あるのでしょうか。

出口教授)他人に対する攻撃的な批判ではなくて、「私はこれができないんです」という自分の能力不足に対する愚痴。それは「心の鎧を脱ぐ」ことだと思います。

吉藤所長)それは一つの強さですね。赤ちょうちんで「いやあ、俺はこれができなくて・・・」と自省するっていうのは、そこそこの強さが必要な気がします。

出口教授)実は、先ほどから言っている脆弱性、つまりバルネラビリティと対になる言葉が復元力、つまりレジリエンスなんです。生物は脆く傷つきやすい。でも、そこから復元する力も持っている。傷を負っても、自己治癒する力を持っている。人間は完璧な存在ではないので、心が常に揺れるし傾きます。でも、そこから戻る力、強さもある。つまり、脆弱性と復元力は表裏一体の関係なのです。この両方が備わると「しなやかさ」になる。超合金の強さではなくて、弱さを芯にちゃんと持って認めた、しなやかさ、強靭さ。でも、復元するのも1人では大変だから、そこもWeで。赤ちょうちんで、おでんをつつきながら愚痴り合うというのは、Weで復元する作用もあるということなんです。

吉藤所長)実は私、かぐや姫の歌が好きでしてね。南こうせつさんの「赤ちょうちん」。

出口教授)このカフェは、もしかしたら「令和の赤ちょうちん」。

吉藤所長)なるほど! すごくいいワードをいただきました。

出口教授)そういえば、カフェ店内のバーカウンターにある「スナック織姫」というネオンサインは色んなニュアンスに富んだ温かい赤ですね。

吉藤所長)私、SFというか未来を描く時に、そのモチーフが「赤ちょうちん」だったんです。SFって、みんな青く描きがちなんですよ。わかりやすく言うと、青色LEDの世界。最近流行りの黒と白と青の世界。私が描く未来は、そうではないものにしたかったんです。

出口教授)赤ちょうちんの店で手間暇かけて出す料理、たとえば、おでんとか角煮に共通するのは、哲学的に言うと「時間が見える」ということなんですね。たとえば、おでんの大根も煮る前は白くて硬いけれど、どんどん出汁が染み込んでいって、色がついて柔らかくなる。皿に乗って出てきた大根が出汁の色をしていて柔らかそうだと、そこに僕らは時間を見るんです。時間が映るような料理をこのカフェで提供するのは、いいかもしれませんね。

吉藤所長)ここに来るお客様は、海外の方も多いんです。おでんも含めた日本の料理を楽しんでいただく。そんな令和の赤ちょうちん、いいですね。まちゅんさん、今度、おでんを作るOriHimeを作って、令和の赤ちょうちんで出そう。

まちゅんさん)ぜひ、ぜひ。

(おわり)

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