経団連の科学技術立国戦略 思想・哲学を柱の一つに 京都会議を評価

 経団連は5月11日、政府への提言文書「科学技術立国戦略」を公表しました。科学技術立国の実現に向け、「科学技術」への投資拡大やその成果の受け皿となる「産業・社会」の改革に加え、それらを支える「思想・哲学」のあり方まで含めた総合設計を提唱していることが大きな特徴です。京都哲学研究所(KIP)による京都会議の取り組みにも言及しています。

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 この提言は、京都哲学研究所の共同代表理事を務める澤田純NTT会長(経団連副会長・科学技術立国戦略特別委員会委員長)が中心となって取りまとめられました。5月13日には、 筒井義信・経団連会長と澤田会長らが首相官邸を訪れ、高市早苗首相に提言書を手渡しました。

 科学技術政策というと、研究開発投資の拡大や産業競争力の強化が注目されることが少なくありません。今回の提言で目を引くのは、技術革新が人間社会そのもののあり方を問い直す時代に入りつつあるとの認識のもと、「思想・哲学」の重要性を正面から打ち出した点です。

 提言の冒頭では、人類の歴史を科学技術によって可能性を切り開いてきた歩みとして描く一方、その力が「戦争被害の拡大」「格差の助長」「情報の混乱」「安全保障上の脅威」などの「社会的リスク」を深刻化させたと述べています。さらには「人間とは本来何をなすべき存在かという、人間の尊厳すら揺るがすまでに至っている」との問題意識を示し、「科学技術のもつ光と影の両面を正しく認識し、人間の善性に基づいて、その力を望ましい方向へと導くことができるかがいま問われている」と記しています。

 その上で、現在の国際情勢について、「特定の価値観や規範を標準として、全体を『一元化』の方向へ導こうとする力学」が目立つようになり、それが「対立と分断」を招いていると警鐘を鳴らしています。こうした状況の中で必要なのは、「単一の価値観や秩序への収斂」ではないと主張し、多様な価値観が併存し、重層的に共存・補完し合う「価値多層社会」を目指すべきだと訴えています。「価値多層社会」の実現は、京都哲学研究所の目指す理念でもあります。

 日本は、東洋に根差した歴史的・文化的背景を持ちながら、西洋の制度や思想も積極的に取り入れて発展してきた国です。提言では、こうした特質を生かし、日本が「価値多層社会」の構築に向けて国際社会をリードすべきだと主張しています。

 思想・哲学について詳述した章では、生成AIやAIエージェント、フィジカルAIといった近年のAI技術は、単に人間の活動を支援するにとどまらず、代替・代理する可能性がある点で「従来とは異なる次元の課題を提起している」との問題意識を提示しています。

 工場の無人化が進めば人は工場で何を担い、何を働きがいとするのか。教育の現場では、生成AIによって学習の個別最適化が進む一方、発想の画一化や批判的思考力の低下を招きはしないか。こうした問いに向き合うにあたり、「人間が何を価値あるものとみなし、いかなる未来を志向するかを指し示す」ものが思想・哲学であるとし、さらには「『思想・哲学』は科学技術の進歩に人間にとっての『意味』と『方向性』を与えるものであり、科学技術立国の土台として不可欠な基盤である」と明記しています。

 提言の後段では、西洋思想に加えて東洋思想を包含する日本の「希少性、優位性」を生かし、「世界的なオピニオンリーダーが一堂に会し、思想・哲学界との対話を通じて、世界に向けて未来社会像を構築・発信し、ひいては国際世論やルール形成へと接続させるための場」を創設すべきだとうたっています。その文脈の中で、「京都哲学研究所による京都会議の取り組みは極めて有効と言える」と評価しています。

 AIをはじめとする先端技術が急速に発展する中、人間とは何か、幸福とは何か、どのような社会を目指すのかという問いの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。経団連が提言において京都会議に言及したことは、こうした問いに向き合う場の必要性が経済界で強く認識されてきたことを示しているものだと言えそうです。

 ※写真は経団連から提供を受けました。

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