価値多元性に触れ「自己」見つめ直す 京大・オックスフォード大との共催シンポに100人

 京都哲学研究所は4月14、15日の2日間、シンポジウム “Self, Identity, and Value Plurality”(自己・アイデンティティ・価値多元性)を京都市の京都大学芝蘭会館稲盛ホールで開催しました。国内外の研究者や企業関係者ら約100人が多角的な視点に触れ、それぞれに考えを深めました。

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 今回のシンポジウムは京都大学、オックスフォード大学コーポレート・レピュテーション・センター(Oxford Centre for Corporate Reputation=CCR)との共催で、当研究所の共同代表理事を務める京都大学の出口康夫教授、オックスフォード大学(イギリス)のアラン・モリソン教授、ルパート・ヤンガーCCRセンター長らが登壇しました。当研究所は昨年5月、オックスフォード大学で開催されたシンポジウムでCCRと連携し、イギリスを訪問して同シンポに参加するなど、オックスフォード大学との関係を深めています。

 最初に講演したマサチューセッツ工科大学(MIT。アメリカ)のヴィープケ・デーネーケ教授は冒頭、価値多層社会の実現に向け国際的なネットワークの形成に力を入れる当研究所の取り組みに触れ、「京都哲学研究所の非常にユニークな点の一つは、多様な背景、立場、思考様式、働き方を持つ人々が集まっていること。このような分野横断的な対話は大変貴重」だと強調。講演では哲学伝統の多元性を顧みつつ、「哲学を成り立たせている前提そのものを問う哲学」、すなわちグローバルなメタ哲学の重要性を説き、「新たな価値多元性のパラダイムに到達するための有効な手段になり得る」などと指摘しました。

 次に登壇したモリソン教授は「人間はなぜ自分の評判を気にするのか、社会科学的な説得力ある説明が見当たらない」と問題提起し、評判と自己の関係性について考察しました。評判は有用な資産であるという説を認めつつも、評判は自己性と結びついていると指摘。この点を明らかにするため、「私が過去に残していく物事の痕跡」という概念を提唱し、これを「飛行機雲」に例えました。そして、評判とは「私が過去に残していく物事の痕跡」の解釈であり、「私の自己性は、私自身と他者がその飛行機雲をどのように解釈するかによって決定されている」との見解を披露しました。

 学術的議論を社会の実践と接続するため、分野横断的な二つのパネルディスカッションも行いました。第1回京都会議でも試みた実務・文化・学術の各領域を横断する対話の場です。産業界の視点と外交と文化の視点から価値の多元性が社会実践の場においてどのように顕在化しているかが多角的に議論され、知見が深められました。

 一つ目のパネルにはセブン&アイ・ホールディングスのクリスティン・エドマン社外取締役、イギリス紙フィナンシャル・タイムズのレオ・ルイス東京支局長、デロイト・トーマツの熊谷圭介パートナーの3人が登壇。モデレーターを務めたオックスフォード大学CCRのルパート・ヤンガー所長は、株主価値の追求が企業の存在意義であった90年代と異なり、特に2008年の金融危機以後、企業は社会の多様なステークホルダーに対して責任を負った社会的存在であるとの認識が広がったと指摘。それぞれのパネリストはCEO、シニアコンサルタント、報道の立場から価値の多元性がビジネスの現場でどのように反映されているかについて論じました。

 二つ目のパネルでは在大阪イギリス総領事館のマイケル・ブライス総領事、茶道「芳心会」を主宰する茶人の木村宗慎氏、デーネーケ教授の3人がモデレーターの出口教授とともに、共存的繁栄を目指すうえでの外交や文化の役割を議論しました。ブライス総領事は「相手にこちらの思い通りにさせる技術」としての外交ではなく、異なる文化の間に「橋を架けること」こそ外交の役割であるべきだと力説。木村氏はブライス総領事が触れた橋渡しの役割を引き合いに「侘び」の本質を説きました。デーネーケ教授は自身がけん引するMIT グローバル・ヒューマニティーズの試みを紹介しつつ、文学が外交的知性の涵養に寄与する可能性について論じました。

 シンポジウム2日目の15日は、東京大学の納富信留教授、オックスフォード大学のシア教授、カーディフ大学(イギリス)のソフィー・アーチャー教授による講演のほか、韓国科学技術院(KAIST)AI哲学研究センターのキム・ドンウ研究センター長らを迎えたパネルディスカッションも行われました。

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