哲学は社会を変えられるのか――出口・ガブリエル両教授が語る「社会実装としての哲学」
京都哲学研究所の共同代表理事を務める京都大学の出口康夫教授と、シニア・グローバル・アドバイザーを務める独ボン大学のマルクス・ガブリエル教授による対談イベントが4月17日、東京・赤坂の博報堂本社内にある「UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)」で開かれました。会場は約90人の参加者で満員となり、哲学のあり方をめぐって活発な議論が交わされました。
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イベントは、両教授による共著「これからの社会のために哲学ができること 新道徳実在論とWEターン」(光文社)の出版を記念したものです。AIや民主主義、環境問題など複雑化する現代社会をテーマに、哲学が未来や社会をより良く創造できるのかという問いに対し、両教授が約90分間にわたって持論を熱く語りました。
出口教授は、哲学だけでは社会は変えられないとした上で、「産官学民、様々な方々と協力して初めて変えていくことが可能になる」と語りました。そのような考えに基づき、京都哲学研究所を設立したと説明しました。
ガブリエル教授は、現代社会を「入れ子状の危機」の時代だと表現しました。気候変動、AI、リベラルな民主主義の揺らぎ、地政学的緊張など、現在の危機は互いに複雑に絡み合っていると指摘。例えばAIによる偽情報や分断が民主主義を揺るがし、それが国際対立につながる一方、気候変動から議論を始めても、エネルギーや戦争、AIの問題へとつながっていくと語りました。
こうした時代には、従来型の「ビジネス・アズ・ユージュアル(これまで通り)」では立ち行かなくなるとの認識も示しました。人文学、科学、工学を結び付ける「リカップリング(再結合)」が不可欠であると説き、さらにビジネスや芸術、メディアなど分野を超えた協力の重要性を強調しました。また、企業が倫理的課題の解決を通じて価値を生み出す「倫理的資本主義」の考え方も紹介しました。
AIについては、人間の思考や行動を映し出す「魔法の鏡」だと説明しました。人間社会の偏見や欲望も映し出す存在だというのです。その上で、人間の判断を置き換えるのではなく、より良い選択を支える「人類の友人」としてAIを活用する可能性を語りました。
ガブリエル教授が、複雑な危機の中で哲学とビジネス、AIが協力する必要性を語ったのに対し、出口教授は、「WEターン」の考え方から応じました。「私(I)」ではなく、「我々(WE)」を単位に社会を捉え直すことで、人間と社会、自然、AIとの関係も違って見えてくるという提案です。人間は一人では生きられず、他者や自然、技術に支えられていると指摘し、「私」の行為も「我々」による共同行為ではないかと問いかけました。
また、「我々(WE)」が固定化される危険性にも言及しました。独裁や同調圧力を生む「悪い我々」を避けるため、特定の価値観が中心を占め続けないよう、中心を空けておく「中空的な我々」という考え方も紹介しました。AIについても、人間が一方的に支配する対象ではなく、互いの偏りを映し出し合う「共冒険者」のような関係になりうると語りました。
会場からは、古くからある思想を現代の問題にどう生かすのかといった質問も出ました。出口教授は、仏教や老荘思想などから着想を得ながらも、それをそのまま提示するのではなく、現代の言葉で語り直すことが重要だと説明しました。
イベントの最後には、司会を務めたUoC局長の高橋徹氏(京都哲学研究所シニアコミュニケーションズマネージャー)が、両教授による新書の冒頭にある「未来の世代にとっての良き祖先(グッド・アンセスター)になりましょう」という言葉を紹介しました。AIの急速な発展や国際情勢の不安定化など、先行きの見えない時代だからこそ、何より大切なのは「絶望しないこと」だというメッセージが共有されました。
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