AIを「私たち」の中へ——羅針盤フォーラムで澤田共同代表が提起

 資源リサイクルなどを手がける社会デザイン会社「アミタホールディングス」(京都市)は7月28日、AI時代の経営のあり方を問う「羅針盤フォーラム2026」の第1回会合を東京・八重洲で開催しました。AIを人間に従属する道具としてではなく、共に社会を形づくる「私たち」の一部として捉え直せないか――。京都哲学研究所共同代表を務めるNTTの澤田純会長が登壇し、経営や科学技術、AIを哲学から考える必要性を訴えました。

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 フォーラムでは、「知性の羅針盤~マルチエージェントAIがもたらす人間拡張とは~」をテーマに、東京大学東洋文化研究所の中島隆博教授と澤田会長が講演し、その後にアミタホールディングス会長兼CVOの熊野英介氏を交えて議論を交わしました。企業幹部ら約100人が参加し、質疑応答も活発に行われました。

 澤田会長は講演で、企業経営で生じやすい現場と本社の意識差を取り上げました。本社は抽象化し、現場は具体に寄ろうとしますが、必要なのはどちらか一方を選ぶことではありません。「現場にも抽象的な視点がいり、本社にも具体的な理解がいる」と説明し、経営とは、現場の具体に入り、そこから抽象へ戻る往還を繰り返す「螺旋的な運動」だと論じました。

 日本企業が掲げてきた「選択と集中」についても取り上げ、それだけでは会社は小さくなっていくと指摘しました。「選択して拡大する」という反対側の視点も持って経営にあたる重要性を説きました。

 その上で澤田会長は、「あるもの」だけを起点とする思考の限界を指摘しました。「今あるものをどうするか」と考えるだけでは必要十分ではなく、自分の外にある可能性や、まだ経験していない「ないもの」を発想する必要があると訴えました。

 科学技術立国の実現に向けた考え方も紹介し、企業が研究開発、設備、人への投資を自律的に増やす「投資牽引型経済」への転換が必要だと説明しました。ただし、科学技術だけを進めても社会は変わらず、産業への実装と社会の需要が必要であり、その全体を支える思想・哲学が欠かせません。「科学技術」「産業・社会」「思想・哲学」の三領域を一体で考え、それぞれを結ぶ線を強くすることが重要だと強調しました。

 技術が人間にもたらすものについては、プロメテウス神話を紹介しながらひもときました。技術は人間を解放する力になる一方、災厄をもたらす可能性もあります。人間が共同生活を営むには、技術だけでなく「慎み」と「正義」が必要になります。技術が社会を決定するとも、社会が技術を決定するとも言い切らず、両者が互いにつくられていく「社会構築主義」の視点を提示しました。

 こうした問題意識は、当研究所の設立の背景ともなっています。NTTが推進する次世代光通信技術「IOWN(アイオン)」は、光をデータセンターやサーバー、半導体内部へ導き、社会の情報基盤を大きく変える可能性があります。澤田会長は、この構想を京都大学の出口康夫教授に説明したところ、「新しい社会インフラになるのなら、新しい哲学がいる」と応じられたことを紹介し、当研究所の設立につながったことを明かしました。哲学と産業界が継続して議論する機運をつくり、技術の社会実装を支える価値観や人間観を国や分野を越えて問い直していくための対話の場を育てることが、当研究所の役割だと語りました。

 産業界では「マインドセットを変えよう」と言われますが、掛け声だけでは変わりません。澤田会長は、マインドセットのさらに下にある人間観や価値観を問い直す必要があると指摘しました。AIを人間に従属する道具としてのみ扱うのではなく、「私自身も『私たち』の一部であり、その共同体の中にAIもいる」と考えるべきではないかと問題を提起しました。

 澤田会長と中島教授、熊野氏による鼎談では、AIが人間と共に考える存在になり得るかどうかについて、議論になりました。澤田会長は、現在のAIは膨大な知識を集めて普遍化する一方、人間が妥当だと考える範囲に収まるよう調整されていると説明しました。一人の利用者が自分に都合のよい答えだけを求めれば、AIは「究極のエコーチェンバー」になりかねません。人間の隣に一つのAIを置くだけでなく、複数のAIをつなぎ、相互にチェックさせる「AIのインターネット化」も提案しました。「AIをけん制できるのはAIでもある」と述べ、複数のAIが相互に確認しながら人間と共存する構造をつくれば、AIをもう一度「私たち」の中に入れて考えることができると説明しました。

 中島教授は、人間は身体を持ち、他者と世界を分かち合い、関係の中で自らも変容する存在だと論じました。AIはHuman Co-becoming(他者とともに人間的になりゆくもの)の主体そのものではないものの、人間や環境との共同のプロセスに参与する「共に考える仲間」になり得ると応じました。

 会場との質疑応答では、個人を尊重しながら、会社への誇りや組織としての力をどう育てるかという質問が出されました。

 澤田会長は「Self-as-WE(私たちとしての自己)」という考え方を示しました。個人である自分を大切にしながら、同時に全体も大切にする。個人が社風や会社を守るだけではなく、会社も個人を守り、その人の自己実現を支えなければならないと述べました。「社員が会社を実現し、会社も社員を実現する」。この双方向の関係を明確にできれば、会社への愛着や誇りは自然に生まれやすくなると説明しました。

 数値化したり、明確に同定したりできない価値を、互いにどう認め合うかとの質問も出ました。澤田会長は、組織を率いる際に意識してきた三つのことを紹介しました。感情を直接変えようとせずに「ものの考え方や見方を変える」、相手を変えようとするのではなく「自分がどう変わるかを考える」、過去の失敗にとらわれず「明日を変えることに力を使う」というものです。外から評論するだけでなく、自ら相手に接し、自ら率先して動く。数値化しにくいものを認め合うための突破口は、責任を他人だけに負わせず、自分が関係の中へ入っていく実践にあると語りました。

 熊野氏は締めくくりで、「考えることを抽象的な議論だけで終わらせず、関係の中へ入り、場を作り、事業として実践する。私たち事業家にとって、こうした姿勢がますます大切になる」と述べました。

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